スループット会計クイズの答え【後編】

クイズび問題はこちら

答えの前編はこちら

前編をまとめると、
・従来のコスト会計での考え方では、正確な答えが導けなかった。
・具体的には、
利益率の高い製品を作るよりも、
利益率の低い製品を作るほうが、
最終の利益が多くなるケースがあった。

なぜ、利益率の低い製品を作ったほうが利益が増えるのか?

今週は、この答えをスループット会計で考えていきます。

 

そもそもスループット会計は、TOC理論(制約理論)を元にしています。
TOC理論とは、

システムの能力は、制約条件に支配される

というものです。

例えば、金属の鎖があります。(=システム)


鎖の強度は、鎖を構成する輪の強度で決まるので、
一番弱い輪の強度で決まります。(=制約条件)

鎖全体の強度をあげようと思うと、
一番弱い輪を見つけ、その強度を上げるしかない。

他の輪の強度をいくら上げても、鎖の全体の強度は上がらない。

 

今回の問題をスループット会計で考えると、

『何が制約条件なのか』

を第一に考える必要があるということです。
決して、利益率や粗利額ではないのです。

工場の稼働=機械の稼働ですから、
最初に製品ごとの機械の稼働時間を見ていきます。

婦人服・紳士服の需要を100%満たそうとすると、
縫製機の稼働時間が3000分となり、
2400分を超えることがわかります。

裁断機は100%の需要を満たしても1440分なので、
稼働時間を超えることはありません。

ということは、縫製機が制約条件になります。

次に、

縫製機を動かせる2400分を婦人服と紳士服に、どのように配分するか?

を考えます。

1枚粗利は 婦人服 USD60  紳士服 USD50
生産効率は 婦人服1枚作る間に、紳士服は1.5枚生産可能

ということは、
婦人服1枚でUSD60 のスループットが生まれる時、
紳士服は USD75 のスループットが生まれる
ことになります。

なので、紳士服を120枚作り(縫製機を1200分使い)、
縫製機を動かせる残りの1200分で婦人服を80枚作る組み合わせが
一番利益が出ることになります。

次に、もしあなたが利益を増やすために投資をするとしたら、
何に投資しますか?

よくある失敗は、全体の処理時間の短縮を目指すことです。

婦人服の処理時間は 裁断 2分 縫製15分 合計17分
紳士服の処理時間は 裁断10分 縫製10分 合計20分

なので、紳士服の裁断を減らせば良いのでは?と考えます。

紳士服の裁断効率を3分縮める投資をすると、利益はどうなるか?

紳士服の処理時間は減りますが、出来上がる製品の数量は変わらないので、
利益は変わりません。むしろ、設備投資した分、利益は下がります。

スループット会計で考えると、制約条件は縫製効率ですから、
そこに設備投資することが必要だと分かります。

いかがでしょうか?

「こんなの、今さら言われなくても、当たり前でしょ」

と思われているかもしれません。

しかし、案外忘れられていることです。

OEMビジネスで利益を増やそうとする時、

制約条件は何か

を考えることは少ないと思います。

客先が制約条件なのか、
オーダー数が制約条件なのか、
生産キャパが制約条件なのか、
人材が制約条件なのか、
もしかしたら、アイテムや市場が制約条件なのかもしれません。

システムの能力は制約条件で決まる、という視点は、
戦略を考える上で大切だと思います。

吉川一平

展示会オンラインの主催者です。アパレルOEMのビジネスをして20数年の、そこそこベテラン。ある工場の社長から付けられた呼び名 「カットソーの貴公子」 は使ったことありません。

~略歴~
京都大学経済学部卒業後、伊藤忠商事株式会社へ入社。 退職するまでの12年間、アパレル部門で製品OEMビジネスに携わる。 2008年独立し、株式会社京都エモーションを設立し、現在に至る。

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